でもあれって確か女物だろ。

何で有正が?

まあ男の中にも、甘い女物の香水を好んで使うやつがいるという話を聞いたことはあるけれど、これまでの記憶の中に、そのような香りを有正に嗅いだ覚えはない。

吉田の匂いともちがう。

彼女は見た目の雰囲気を裏切らず、シャンプーや柔軟剤といった、奥ゆかしい香りを好んでいる感じがうかがえる。それでは匂いは移らない。


「ちょっ! なにすんだよッ!」


こんなこと、まったく趣味ではないけれど。

窪川は有正の隙を突いて腕を取ると、有無を言わさず、自らの鼻先へ彼の手首を近づけた。

匂わない。


(こいつのじゃない)


嫌な予感がした。


「離せよ、気持ち悪いな」

「おまえ、女と一緒にいただろ」


有正は、俺を見るときにはいつもそうするに似た眼差しを向けた。