「ごめん、待った?」
「全然」
行こうと言いながら、有正は長年の恋人のように彼女の手を取ると、夜の町へと歩き出した。
「どこに行くの?」
弾んだ声は甘い。
手を繋ぐだけでは物足らないのか、自らも大胆に擦り寄ってくる動作を見れば正直、できすぎだな、と逆に有正のほうが心配した。
けれど、彼女のとろけんばかりの表情を見れば、そんな懸念は瞬く間のうちに吹き飛んだ。
夢のような展開に舞い上がり、すっかり逆上せしまっている。
彼は彼女を振り返り、微笑んだ。
「黙ってついてきてよ」
傲慢で強引な科白にもむしろ女は嬉しそうに笑った。
重症だなと思うが、有正としては願ったり叶ったりである。
果たして有正は眼鏡に言われたとおりのホテルへとやってきた。

