有正が声をかけたその人は、一瞬何を言われたかわからないような顔をしてレジスターから首をもたげた。
有正はカウンターに手をついて顔を寄せ、他のウェイトレスに聞かれないよう声を落とす。
「高校生なんだし、10時までってことはないよね」
「え、と……」
女は戸惑いがちに壁掛けの時計を確認して、「あと5分で交代」とやはり彼女も声を抑えてそう答えた。
「俺、待っててもいいかな」
財布をのぞき、小銭を数える有正の視界の端に、瞠目している彼女が見える。
わりとがっつり――いや、本人はあくまでひそかに、だろうが、思いを寄せていた相手からの予期しないアプローチに戸惑いつつも、彼女の口の端には押さえようのない期待と歓喜がちらついている。
わかりやすいやつだ。
こういう手合いは、自らも似た性質を装いながら軽薄そうな男には存外潔癖なものだが、よほど有正の顔に惚れているのだろう、微塵も警戒している気配を示さない。
安っぽい。
こんなのわけないと、有正は一気に畳みかけた。
「前から君のこと気になってたんだよね。君も俺のこと、……そうでしょ?」

