なんだかさむいことを思ってしまった。
これはぼく自身が望んだことだ。
意識して意地悪な桧葉有正を演じているわけではないけれど、嫌われたほうがどのみち楽なことを彼は知っている。
誰かを信じても、結局裏切られることがわかっているなら。
新たな関係なんて望むだけ自分をくるしめる。
そういう次第で、多分、本来なら誰かに使われるべきはずの思いやりとか情けとかいう余力をがっつり持て余しているぼくは、これを菜々ちゃんに注ぐことは、まったくやぶさかではない。
『助けて欲しいの、有正。一生のお願いだから』
一生なんて。
菜々ちゃんに望むものなんて何もない。
来いと言われれば行くし、待てと言われればいつまででも待つ。
せっかくその覚悟ができているのに、彼女は望みがなさすぎて困る。
有正がこれほど前向きに人情を示すことなど、知人の中では菜々ちゃん以外にありえないのに。
中学時代、騒動に巻き込まれて傷心したうえ、その騒動に派生したクラス替えや心無い噂から孤立しかけた菜々子をずっと気にかけ支えつづけてくれたことを、彼女はすでに一生分の助けをもらったくらいに受け止めているらしい。
なんとも好ましく健気な性格だと思うが、同時に有正は惜しいとも思う。
そんな遠慮は無用なのに。
おそらくそういう後ろめたさもあってのことだろう。
まるで血の気のない、すごく悲壮な顔で相談に来たのは。

