何度耳を塞いだことだろう。
塞がなくても胸が痛くなくなるまでどれくらいかかったか、もう思い出せない。
信じられる人なんて、もう、今のパパと菜々ちゃんしかいない。
他の人なんてみんな、みんな、みんな嫌いだ。
初対面の人でも嫌い。
なんなら好かれたって嫌いだ。
腹の底では絶対にぼくをバカにしてるんだから。
そんなことないわ、って菜々ちゃんは言う。
そうかな、ってぼくは思う。
気が優しくて自分でも臆病なことを認めるパパはぼくのことをわかってて、残念だけど、そういうふうに見る人もいる、って言う。
ほらね。そうだよ。パパ大好き。
そう、好いていることが、必ずしも尊敬に結びついてるわけじゃない。
どうせぼくはみんなと同じことができない頭の弱い男の子だもの。
誰に好かれなくたって構わない。
それなら誰を構う必要も親切にする義理もぼくにはない。
それが常識だなんてクソくらえだ。
邪険にされたと逆恨みされたって知ったことじゃない。
そして気がつくと、ぼくの周りには本当に、菜々ちゃんとパパしかいなくなっていた。
(――なんてね)

