まだあなたが好きみたい




菜々ちゃんはいつだってぼくの味方だ。

ぼくだっていつも菜々ちゃんの味方だ。

その思いはゆるぎなく、地平線のように綺麗な直線を描くのに、その意思に基づいた行動の天秤はいつだってあからさまに傾いている。

頼ってばかりのぼく。

助けてばかりの菜々ちゃん。

そんなことは、誰よりもぼく自身がいちばんよくわかっている。


『旦那さんに逃げられちゃったんだって』

『新しい旦那さん、すごくいい人なのよ。物静かで垢抜けない感じの人だけどね』

『でもそういう人のほうがかえっていいんじゃない? だってあの子、すこし変だもの』

『しょうがないわよ。そういう家庭に生まれちゃったんだもの』

『蒸発した旦那さんと、日に日に顔つきが似てきたわよね』

『ちょっと頭が弱いのよ』

『みんなと同じことができないって、担任の先生がまた今週も来たのよ』


みんながぼくらの噂をする。

ぼくの悪口を言う。

ぼくは性格が悪いらしい。

協調性がなくて、落ちこぼれだって。

みんな声をひそめてそう言うけれど、どうしたら絶対聞かれてはいないと言い切れるのだろう。


ぼくにはちゃんと聞こえていた。