もしかすると無事に出産して母になっているかもしれない彼女のこともある。
自らも被害者ではあれど、それぞれがどうにか過去に折り合いをつけて慎ましく過ごしている今の生活を守るためなら、加害者も被害者もなかった。
「そういうことだけど」
「わたしじゃ、駄目なことなんですか」
眼鏡は呆れたように首を横に振った。
「君で済む話ならとっくにやらせてるよ」
「有正に何をさせたいんですか。彼をやる気にさせるのはわたしでも手こずる場合があるんです。内容を把握しておかないと」
「それは俺が彼に直接話すよ。聞きたかったら後から彼に聞いたらいい。でもそのときには、彼が内容云々に関係なく承諾済みであることが絶対条件だからね」
「そんな」
眼鏡は顔を近づけた。
「悪いようにはしないよ。やってほしいって言ったって、ほんのちょっとのことなんだ。ちょっとだよ。子供におつかいを頼むのと同じレベルさ。そりゃあまあ、ちょっとは彼のここを使ってほしいところではあるけどね」
と、眼鏡はガラスの奥の瞳を妖しく光らせながら、こめかみのあたりを人差し指で触れる。
「犯罪ではないんですか」

