眼鏡は、厳密には菜々子が欲しかったんじゃない。
有正を手に入れるために、彼のお守り役である菜々子を懐柔したかったのだ。
菜々子の頼みならさすがの有正も断れないだろうと思っているところが卑劣で許せない。
でも、過去のことを持ち出されればさすがの菜々子も強気に打っては出られなかった。
今の学校に、菜々子の中学のことを話題するような同校出身者はいない。
高校に上がって1年ぶりに手に入れた安らかに息をつける今の環境をめちゃくちゃにしたくはなかった。
怖かった。
ダサいと揶揄されて、惨めになるのが怖かった。
それに、学校は徹底して離れ離れになったとはいえ、県内に首謀者の二人が残っている事実は軽視できない。
だからこそ、万に一つどこからか話が洩れて、彼らの生活をおびやかすようなことにはしたくなかった。
彼らのためということもあるが、自分のこともある。
逆恨みの危険性を菜々子は危惧せずにはいられなかった。

