だったらそんな日に呼び出すなよクソ、と口の中で悪態をつく。
「まあ、用件ていうか、わかってると思うけど、つまりは俺が君の決意のほどを聞きたくて呼んだんだよね。それでどう? 心は決まった?」
「……有正を貸せって、ことですか」
菜々子は慎重に聞く。
先日の電車の中でのことだ。
眼鏡は真実を知っていると言った。
菜々子は信じなかった。当たり前だ。
あのときのことは当事者とその家族にしか告げられていない。
人の口に戸は立てられないとは言え、全員が被害者かあるいは加害者として騒動に巻き込まれていながら、へらへらと誰彼構わず話して聞かせるはずはなかった。
どうせ菜々子の同級生から聞いた裏付けのない妄想を、さらに面白おかしく脚色したフィクションだろう。
菜々子はそう高を括っていた。
しかしいざ、その内容を駅構内の通路で聞いて、菜々子は震えが止まらなかった。
まるで父兄の集まりに、自らも参加していたかのような正確さだった。
……なぜこいつがそれを知っている。
だがそれを訊ねるまでもなく、眼鏡は自らその正体を明かした。
『俺は、利十(かずと)のいとこだからな』

