まだあなたが好きみたい



その頃、菜々子は件の眼鏡の先輩の呼び出しにあっていた。

場所は市街にあるファーストフード。

ということは必然的に同じ電車に乗って帰るのかと思うとうんざりするが、過去をネタに脅迫されている手前、言いつけに従わなければ今の生活に関わる。

目先の不快どころの話ではない。

用心棒を自称する有正も先に帰してしまった。

なよなよしていても、軽薄でも、一応男の彼をそばに置いておくことの価値はそれなりにあるのだ。

だが今はそのなけなしの援護もない。

妙な気は起こせないし、彼の神経に障るような行動も極力控えるべきだった。

あとちょっとだから、と参考書と塾のらしきテキストを幾度となく見比べて問題を消化していく眼鏡を見守りながら、菜々子は粛々とコーヒーを啜っている。


「はあ終わったー。宿題多すぎー。これじゃあ期末の勉強どころじゃないっての」


ねえ、と同意を求められ、はあ、と菜々子は頷く。

眼鏡は手際よく勉強道具を片付けると、今度は食べかけのハンバーガーに着手した。


「……そろそろ用件を聞かせてもらっていいですか」


堪えかねた菜々子は、眼鏡が食べ終える頃を見計らい、怒りを押し殺した声でそう訊いた。


「そうだね。俺ももうすぐ塾の時間だし、手っ取り早く済まそうか」