しかし、木野村が性質の悪い女に気持ちを移らせた原因の一端は菜々子にもある。

菜々子はそのときのことを思い返し、一人で帰路を進みながら鬱屈とした思いに沈んだ。

人をその気にさせるだけさせて落とし穴に放り込む――その快楽とは如何、という身勝手な実験の被検体に利用したのは事実だ。

菜々子を諦めたのは彼の意思だが、これくらいの詫びはあってしかるべきだろう。

気は重いが、堪えなくては。



「きゃっ!」


声がして、えっ、と思ったときには遅かった。

菜々子は目の前に突如として現れた声の主にまともにぶつかった。

かろうじて菜々子は踏みとどまったが、相手は抗う余地もなくどしんとその場に尻餅をついた。


「あっ、ごめんなさい」


脚を艶かしく横に伸ばし、地面に手を着く彼女は、俯瞰からでも見るからに可憐な女の子だった。

いたた、と小さく声が洩れ、次いで、ヤバ、携帯、と焦った声が菜々子の耳に届く。

白のピーコートから申し訳程度に覗くプリーツスカートの柄に覚えがあった。

そうだ、窪川がその柄の制服を履いていた。