「菜々ちゃんを反射して、他の人が感心してくれたら思う壺だよね」

「思う壺って」


近田が笑う。


「……もうすこし言い方かんがえなさいよ」


始業五分前になると、途端に廊下が騒がしくなってきた。

菜々子も宿題をかろうじて片付け終え、残りの弁当を急いでかきこむ。


「でさ、吉田。できれば女子何人か集めてくれるとありがたいんだけど」

「はい?」

「失恋の慰め会でも、女子がいたほうが場が和むと思ってさ」

「……かえって傷口に塩を塗るだけでは?」

「男だけだとどう接していいかわかんねんだよ」


拝まれると強く拒否もできず、はあ……としか応えようがない。

でも、と菜々子は悩んだ。

近田は以前まで木野村が誰を好きだったかを知らないのだろうか。

いや、知っていたらこんな頼みはしないだろう。


「引き受けてあげたら、菜々ちゃん。バレンタインも近いことだし、彼氏いない女子はここぞとばかりに食いつくよ」


思いがけない有正の援護に、近田もたたみかけるようにこくこくと頷いた。

有正……! 菜々子は隠れて、薄情な幼馴染をねめつけた。


(この裏切り者)