「あんま塞ぎ込むなよ。おまえに落ち度があったわけじゃないんだ」

「サンキュ」


言語から受け取る無条件な陽気さとは裏腹に暗澹とした口調で言って、木野村は教室を後にした。


「俺も混ぜて」


近田が食べかけの弁当を持って、いそいそと菜々子の隣の席に腰かけた。


「どうぞー」

「えー」

「なんだよ有正。いいだろ別に」

「ま、いいけどねー」

「まだ食べてなかったの?」

「あんな話聞いててメシが喉を通るかよ。……聞こえてただろ?」

「まあ……。木野村くん、ちょっと興奮してたからね」

「無理もねぇけどな」

「その元カノが好きだった先輩って、水泳部の津ノ田先輩? 二年生の?」


有正が悪びれもせずそう訊いた。

こちらの話が聞かれているならお互い様だろうとでも言いたげな口ぶりに呆れて言葉が出ない。


「そうだと思うけど」

「えー! あんなブサイクのほうがいいの、彼女? 眼科に行ったほうがいいよ!」

「有正うるさい!」


菜々子は有正の口にメロンパンを突っ込んだ。


「はへふうふひほふひふひってひふひゃはい」

「なんだって?」


半笑いに近田が訊ねる。


「蓼食う虫も好き好きって言ったのよ。どこで覚えたのそんな言葉」

「パパだよ。ママが僕を選んでくれたのはきっとそういう奇跡が起こったからだって。健気でしょ~。ぼく泣いちゃったもの」

「ロマンチックなんだか、卑屈すぎなんだか……」