タイミングからして、明らかに菜々子たちのやり取りに呑まれたと思われる。
するとそれに吊られたか、新たな視線を感じて菜々子は固くなる。
目の端に、こちらに向けられた木野村の顔が映る。
菜々子は前髪を直すのに紛らせて、木野村の視線に気づかないよう努めた。
「近田っちー、盗み聞きはよくないよー」
自分のことは棚に上げて有正が非難する。
「悪い悪い。でもしゃーないだろ、聞こえるんだよ」
「聞かないでよ」
「はいはい」
近田は有正の扱いになぜかすごく慣れている。
その理由を彼自身は弟がいるからと言っていたが、これほど性格の屈折した弟なのだろうか。
「じゃあ俺、次、体育だからもう行くわ。話聞いてくれてありがとな」
木野村が立ち上がる音がした。
予鈴にはまだ早いが、近田の気が逸れたのをきっかけに、興が削がれたのだろうと察する。
申し訳ない思いで菜々子は首をすくめた。

