窪川が差し出したのは黒猫だった。かわいい。……だが。
「なんでよ」
「おまえのがないって言うから」
「意味がわからない。そういうのはカップルでするものでしょ」
「他ならぬ俺さまの誕生日マスコットだぞ」
「だからなんだよ」
すごまれて、窪川はしゅんとした…ように見えた。
しかし、窺うみたいな煮え切らない眼差しにも菜々子はなびくことはなく、結果、窪川は物言いたげな様子で切なそうに猫を戻した。
「それより有正、帰るわよ」
「えっ? もう買い物は終わったの? 見たいお店があったんじゃ?」
「あんなの言葉のあやよ。東くんがいたの」
えっ、と有正は急に真面目な顔つきになった。
「東って、例のむっつりスケベな先輩を敬愛してるっていう元同級生の?」
先ほど思いがけず正攻法でかかってきた眼鏡のことを言っているのだろう。

