まだあなたが好きみたい


「そう。姿が見えないけど」

「買い物。レジが長くかかりそうだからわたしだけこっちで休憩してたの。でももういい加減終わるだろうからわたし行くね」

「えっ、もう?」


うろたえる東に、菜々子はかろうじて残念そうな表情をつくろった。


「いるはずの場所にいなかったら有正が焦るだろうから」

「それは、そうだね……」

「じゃあごゆっくり」

「ねえ、待って」


立ち去ろうとした菜々子を今度は先輩が遮った。


「……なんですか?」


苦心して平坦な声を絞り出す。


「連絡先、教えてよ。俺、君に興味があるんだ」


尊大な物言いに、東がぎょっとしたように目を剥いた。


「先輩!?」


何考えてるんですか、と東がたしなめるように耳打ちするが、眼鏡の視線は菜々子に固定されたまま微動だにしない。

しかし菜々子にとってはいっそはっきり好意を示されたほうが突き放す名目を与えられたようで気楽だった。


菜々子はできるだけ優しい声音で言った。


「わたしはありませんから」