「お、おまえを待ってたんだ」
「え」
心臓が大きく跳ね上がる。
素直な物言い、というものに慣れていないのだろう。
窪川は舌を縺れさせながらたどたどしく続ける。
「来る見込みがあるかは、わからなかった。でも、もしかしたら冬期講習があるかと思って。そしたらあそこ、通るだろ。だから」
「そ、そうとは限らないじゃない」
「え、だってよ、おまえんちのほうに行くのに一番近い道っつったらあそこだろ。それに、こないだだって、土地勘あんのかしんないけど、それにしては躊躇なく帰ってったし」
それは、そうだ。毎日何往復としている道なのだから。
それにしても運がいいのか悪いのか、たまたま菜々子に連れの一人もいなかったことに、窪川の妙な才能を見た気がする。

