まだあなたが好きみたい



足音はどんどん近づいてくる。

息づかいまで耳に届いた。


どうやら菜々子はあの瞬間、変質者の今宵の餌に選ばれてしまったらしい。


菜々子は走った。

死に物狂いで走った。


だがそれでも本来の力の半分も出ない。


それなのに相手は俊足だ。

追いつかれるのは時間の問題だった。


なんでこうなるのよ! 


涙目になりながら運命を呪ったとき、すぐ後ろから険しい声がとどろいた。




「吉田! 待てよ!」




菜々子は、は、と頭の中に疑問符を浮かべると、困惑に意識のすべてを奪われるのに合わせてゆるゆると速度を落とした。


激しく胸を上下させながらついに足を止めた菜々子の肩を、ごつごつした手が掴んだ。


反射的にそれを振り払い、その勢いに任せて振り返る。


そこにいたのは、やはり、窪川だった。


部活帰りか、ジャージ姿に肩にはエナメルを袈裟懸けにしている。

よくそんなもの持ったまま追いかけてきたなといっそ感心した。