まだあなたが好きみたい



日の落ちる速度が速くて、もう足元の影も覚束ない。

人通りも絶えた帰り道は不気味なほどの静寂に包まれていた。


と、どこかで靴がコンクリートを掻く音がした。


菜々子ははっと顔を上げる。

歩みは止めないまま、注意深くあたりを見回すと、遠く、公園の入り口のポールになにやら座り込む人影があった。


思わず息を詰め、目を凝らすが、この距離では顔の造作が判然としない。


回り道をしようかと、来た道を戻りかけたとき、何かを見つけたように人影がすっくと立ち上がった。


びくっと菜々子は硬直する。


見えない視線を感じ取り、もうダメだ、と頭の奥で声を聞いた。


しかし、影が彼女のほうを向くなり身体は勝手に回れ右をして、つんのめりつつも走り出す。


本能に突き動かされるまま、菜々子は走った。


背伸びしてヒールつきのブーツなんて履いてくるんじゃなかった。


映画を見に行った友だちが特におしゃれな人だったから、釣り合いを取ろうと無駄に気負ったのが裏目に出た。