「吉田!」


駅舎を出たところで、菜々子ははっと我に返った。


きょろきょろとあたりを見回すと、いきなり菜々子を飲み込むように、影が頭上に落ちてきた。


振り仰ぐと、そこには荒い息をして菜々子を見下ろす東がいた。



「よかった、やーっと聞こえた。ずっと呼んでたんだよ」

「あ、ご、ごめん。ちょっと、ぼーっとしてて。……もしかして、駅の中から追いかけてきたの?」

「そうだよ。今、俺駅の向こうにある塾で冬期講習受けててさ。帰りに駅の中の本屋うろついてたら吉田が見えて。はは、俺ソートー変な目で見られてただろうな」



自嘲気味に笑う東に合わせて菜々子もかろうじて口の端に笑みを浮かべる。



「わたしに何か用だった?」



意識してもどこかそっけない訊き方になった。

先日の、電車での胸の悪い視線がまだ胸の奥に残っていた。