まだあなたが好きみたい



そう思うが、それならそれでもいいのだろう。


彼は物事に頓着しない。


通じて、人からの心証も彼を煩わせるには弱い。



そういう潔さを菜々子は好ましいと思う反面、どうしても惜しいと思ってしまう。


そこに最近は、お節介かもしれないが、剣呑だという思いが加わるようになっていた。



人に対してなんら遠慮をせず、躊躇もせず、思慮して空気を読むこともせず、ただただ我が道を傲然(ごうぜん)と突き通すというのは、あくまで人々の理想であって、社交性とはかけ離れているからだ。



現に彼は学校で完全に浮いている。



それをまったく気にしていないというのはいささか問題だった。




(でも、有正をこうしたのは彼だけの責任じゃない)




有正の家の、少々変わった家族構成を悪意なく話題にして、まだ幼かった彼の精神を追い詰めた大人たちの配慮のなさにも問題はあった。



それがあるとき風船が割れるように開き直ると、有正は別人のごとく鋼の心を身につけた。



それから彼はずっとあの調子だ。


誰かが風邪を引けば近づかないでよと笑顔で邪険にし、目の前で人が泣いていれば素通りし、自分が泣かせてもそれは泣いている本人のせいで、ひとの話は基本聞き流し。



もはやどこから手をつけていいかもわからない状態にまで彼は人に失望している。



だからこそ取り繕う必要もないんだという言い分は確かにわかるけど……――。





(あいつもこれくらい素直だったら苦労しないのに……)