果たして有正は言った。
「そんな大胆なことしたところでころっと落とせるほどの顔じゃないよ君――痛たたたッ」
「てめぇッ、一遍死にやがれこのッ!」
ちょっと! と有正の手が彼の両頬を引っ張っていた俺の手を鋭くはじいた。
なよなよしててもさすがは男といったところか、一応の力はあるらしい。
「だってぼくのほうがずっといい顔してるもん。それでもそんな大それたことしないけど」
寒気がした。
なんだ、こいつは。
いい顔? たしかに。否定はしない。だが、それを自分で言うところがもう、無理……。
「お・ま・え・が、菜々ちゃんのことを好きになるのは良くも悪くもいい趣味だと思うよ。けどねー、エースが色恋沙汰であーんな暴挙に出るっていうのはちょーっとかんがえものだよ、ねぇ?」
「あれはあいつが誘ってきたんだ」
「うんそうだね。だいたいプライド高いやつってのは得てしてそう言うものさ」
「……」
埒が明かないと、匡は昨夜の彼女との別れ際を思い返しつつ、ぼそぼそとたずねた。
「あいつから、なんか言づてでもあるのかよ」
「ないよ。だって今日ここに来ることも伝えてないもん」
ということは、こいつはこいつの一存でここに来たのだ。
ただ、俺を笑うために。
教師に話を聞きに来たなんて信じられない。
「ああそうかいそうかい。だったらもう十分腸がよじれるほど笑っただろ。満足したな。だったらもう帰れ。とっとと帰れ。出口はそこだ」
「関係者専用って書いてあるよ」
「大丈夫だ気にするな。俺が許可する」
「ぴりぴりしてんねー」
「おかげさまで、誰かさんのせいでな」
「えっそれって菜々ちゃん? ははっ、まさかね」
「お・ま・え・だ・よ」
「えーぼくー?」
匡は有正の襟首を掴むと、そのまま駐車場の入り口まで引っ張ってつまみだそうとした。

