「なんでって、だってそうでしょ。菜々ちゃん、おとなしいもん」
「どこが」
「どこが? 全体的に?」
「お前にはそう見えるのか。医者に行ったらどうだ」
「おかしいなあ。なんだかおまえとぼくとの間で菜々ちゃんに対する印象の齟齬を感じる。……ねえ?」
「んだよ」
「菜々ちゃん、ぼくにはやさしーよ?」
有正はそもそも大きい目を余計にくりくりさせながら言った。
「……。……なにが言いたいんだ貴様」
匡が凄むも有正はにんまり笑ってこれを受け流した。
「菜々ちゃんは可憐で純真な子だよ? ちょっと言い方きついときあるけど、絶対ひとに手は出さないもん」
「ほーう。現に俺はこんなになるほど景気のいい平手打ちを二発もまともに食らったけどな」
「そりゃあ自業自得ってやつだよ」
有正は肩をすくめた。
「そうされるだけのことをしたじゃない。不服なの?」
「大いにな!」
こんなやり取りを昨日もしたばかりだ。なかよし幼馴染が。
すると有正はいきなり見慣れぬむすーっとした顔つきになって俺を凝視した。
匡は身構えた。何だ。何を言う気だ。
生唾を飲み込む。
ぼ・く・の、菜々ちゃんだぞ。
あくまで妄想だが、一概に白けられない科白が脳裏に響いて、匡は何も言われないうちからわずかに狼狽した。

