……でもいまさら引き返すなんて、できるはずない。


強がって、ひねくれて、意地になって結局、ありがとうも言えなかった。



せめてそれくらいは言っておくべきだろうか。このまままた喧嘩別れになっても?




――でも、だからってそれでどうにかなる? 




次につながる? 



連絡先なんて聞けない。あいつだって聞いてくるはずもない。もし聞いてきたとして、わたしはそれにさらっとOKするだろうか。



あいつは今日、整体のために電車に乗った。次いつ電車になんて乗るだろう。タイミングよく出会える確率は? それにプラス、今日みたいなハプニングなしに声をかけてもらえるだろうか。



あらゆる状況を夢想し、勘案して、でもやっぱり絶望的な数字しか見えない現状に、心が散り散りになっていく。




木野村や東の顔が脳裏によぎる。




彼らに揺らぐ気持ちはあまりに儚い。




根っこに彼がいる限り。




それではいけない。




わかってる。