北風が頬に痛い。

気を利かせて風上に立つなんて心配りができる男じゃないことは知ってるけど。


なにも風向きに対し思い切り垂直に並ばなくてもいい気はする、お互いに。





「別に、なんでも」





ぼそぼそと窪川は言った。


さすがにいらっとしたが、飲み込んだ。


ここで口論になるのは避けたいと、本能が気持ちにセーブをかけた。


なんでもないことがないのは目に見えていたし、菜々子自身、先を聞きたい気持ちは山々だった。けれど、





「あ、そ」





それでも寒さが勝った。



言いたくないのは心の準備が整っていないからだ。それならいつまでかかるかわからない。



彼のことは今でも悔しいくらいにやっぱり好きだけれど、この冬風の中を辛抱して聞くまでの価値を見出せるほどには熱い感情が見当たらない。





(じゃあ、なんなんだ)





菜々子は苦笑しつつ自問する。






たぶん、ただ、ずるずると好きなのだ。これまでも。そして、これからも。