「……ちょ、ちょっとした賄賂だよ、悪いか!」




わいろ?



なんでも、あの線路の近道を通るのは校則で禁止されており、ばれるととんでもなく厳しい仕置きが下されるのだとか。それに限っては窪川のようなエース扱いの特待生も例外ではないらしい。




「口止めかよ」




思わず素が出た。




「そ、そうだよ。でも、それが正しい処世術ってもんだろ」



「いや、あんたの場合、むしろあのまま素通りしてくれたほうがよかったけど。逆に意外すぎて忘れられなくて、誰かに言ったかもしれない。言ってないけど」




窪川ははっと口を覆った。


菜々子は失笑した。


なんだ、その顔。



肝心なところでいちいち詰めが甘い。なんて期待を裏切らないんだろう。



「それも、そうだったな・・・・・・」


「ええ」




一本取られた、というふうに彼は悔しげに唸った。




「ところで、いいかげんそっちの用件を話すべきころじゃないかしら? こんなところに二人きりなのも不本意なうえ、本格的に寒くなってきたんですけど」