途中、外からの音にかき消されて聞こえなかったが、あの子、という部分だけはかろうじて聞き取れた。
誰のうわさだろう。
あの子、から導き出される対象は女の子だ。
湧き出す好奇心に勝てず、菜々子はついに目線を上げた。そして思わず息を呑んだ。
身体は東へと傾けながら、眼鏡の視線はゆるぎなく、わたしに注がれていた。
あまりにまともに目が合って、心臓が暴れんばかりにその速度を上げる。
(……な、なに?)
前髪に隠すように覗き見る菜々子の視線には気づかない様子で、眼鏡はさらに東の耳元に顔を寄せて何事かを耳打ちする。
その間も男の視線はわたしを見たり見なかったりとせわしない。
その安定しない視線が菜々子の不安をあおる。
「やっぱかわいくね?」
眼鏡がささやいた。

