夏原がこれ以上俺の心配をしないよう、心を砕いている。
そのあまりに自然な心の運びに自分で自分に戸惑ってしまう。
あろうことか、
「ようするに、俺もまだまだってことだろ」
しんじられない言葉が飛び出した。
えっ。今の誰の言葉? 俺の口から出た? まだまだ?
俺が? まだまだ。
「だからおまえが気にするようなことじゃないんだ。俺が俺をうまいこと操縦出来てないだけだから。……それなのになんか、ごめんな。余計な気づかいさせて」
「そんな。俺にはそれくらいしかできないし」
夏原は屈託なく笑う。
「でも今日、試合中なのにすごい思いつめた顔でまともに突進してこられたときはマジでびびった。絶対どっか悪いんだって思ったからつい声かけちゃったけど、俺のせいでますます考え込みそうになったりとかしたらごめんな。てか、やめてな」
夏原の飾らない優しさが沁みる。
俺にも、こんなふうに俺を見て、気にして、なんの見返りもなく親切にしてくれる誰かがいるのか。
自分の言葉がきっかけで本調子じゃない自分を無用に思い知らせ、余計に落ち込んだらどうしようとおろおろする夏原に匡は首を横に振り、
「むしろすこし落ち着いた」
それは本当だった。
根本の解決にはまったく至ってはいないけれど、すこし、体が軽くなった気はする。

