(俺のことなんか、嫌いなんだと思ってた)
まだしも初心者の夏原なら、俺に対して憧憬を抱くのも無理はないと言う気がするけれど、あいつらがそんな素直な敬意を洩らすだろうか。
ほとんど贔屓されているに等しい俺なんて、ただただ目障りで鼻持ちならないいやなやつくらいにしかおもわれていないと信じて疑わなかったのに。
だいたい白井など、ロッカーが隣なのに入学からこっち挨拶くらいしかまともに交わしたことがないのだ。
にわかには信じがたい話である。
しかし夏原がうそを言っているわけではないだろう。
さきほどからの彼の口ぶりに阿りは感じられず、皮肉もない。
「そんなことないよ。事実だもん。窪川すげーじゃん。でも、それなのに最近は目に見えてボールも取り損ねるし、普段なら相手の士気を奪うくらいシュートもバシバシ決めるのに」
「それが買いかぶってるって意味だろ」
一流プレイヤーなら、いくら屈託を抱え込んでたとしても、こんなふうに自分を見失って荒れて、周りを巻き込んだりなんかきっとしない。
しかもその理由が女のことでだなんて、恥ずかしくて死んでも口にできなかった。
「なんかあったんじゃないの?」
「なんもねーよ」
はじめて同輩から真摯に心を配ってもらえて、ちょっとこそばゆいくらいにうれしいけれど、事情が事情なので話すわけにもいかず、妙な歯がゆさがある。
夏原はまだ納得がいかぬようで、気がかりそうに俺の顔を覗き込んだ。
匡は困って、ほんとになんでもねえから、と微苦笑した。
「ちょいスランプっつーか、なんか、そんなんだろ。俺も自分でよくわかんないし」
頬をかく。手のひらの汗が尋常じゃない。
こんなに言葉を選んでいる自分が自分じゃないみたいだ。
それも、本心じゃないことを一所懸命、どきどきしながら選んでる――夏原のために。

