「そうして僕は、僕を友達だと思ってくれてた人を裏切った」
「……うん」
「殴ってくれれば良かったのに、明正はしなかった。僕を大嫌いだって言った時の顔、忘れられないんだ。」
「顔…?」
「怒りじゃなかった。すごく悲しそうな、寂しそうな顔。」

“幼稚園児のくせに、大人みたいだった”と徹くんは薄く笑った。


「明正が大阪から帰ってきた日、まっすぐ僕に会いにきたんだ。今でもお前が嫌いだ、許してない…って。あの日、あの顔を見てから罪悪感を感じていた僕は、罪滅ぼしの気持ちもあって、言うことを聞くことにしたんだ。」

徹くんがパシリのようになっていた理由は分かった。でも…

「私を彼女だって言ったのは…」
「明正は、まだありさが好きだって気づいたから。今の僕はありさが好きなわけじゃないって示そうと思って、とっさに言ったんだ。僕の問題に巻き込んで、本当にごめん。」

徹くんが私に頭を下げた。

「でも、あの時の数学の課題を最後に、明正からの頼みごとはなくなったんだ。もし僕と有坂さんが付き合ってることで明正の気持ちが落ち着くなら、迷惑だと思うけど、助けてほしいんだ!!」

私はコーヒーを飲み干した。
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「それで、僕が助けてほしいってお願いした日のことだけど…」
「えっ?あ、うん…」

その時のことを思い出していた私は、現実に引き戻された。

「どうして引き受けてくれたの?」

徹くんの1つ目の質問だった。