=通り雨=
突然の雨だった。
ポツリ・・・ポツリと、大粒の雨が髪に肩に青空から落ちてきた。
リョウコが見上げた真上は、かろうじて青空だったが、左手から濃いグレイの低い雲の壁が空に幕を引くように押し寄せてくる。
今日の午後は、所によって雷雨になるでしょう・・・
天気予報で云ってたっけ・・・
この雨をしばししのげる場所は?とあたりを見回して、前方100メートルほど左手にあるコンビニを見つけた。
あの店で、傘を買ってもいいかな。まぁ、ちょっと立ち読みでもしてれば、上がりそうな気もするし。
リョウコは、そんなことを想いながら、小走りに、その店へ駆け込んだ。
カツロウはつぶやいた。
やっぱり降るよな、急に暗くなったからなぁ・・・
右手の掌を上へ向け、雨粒の大きさを確認しながら、彼は、とりあえず足を早めた。
そして、前方に見つけたコンビニへと目標を定めた。
あそこで、傘を買うか、それとも様子を見るか。どちらにしても、店に入ればなんとでもなる。
そのコンビニは、突然の雨を避けた人たちで午後2時とは思えないほどの賑だった。
すぐに、傘を買い、出てゆく者、店内の商品をゆっくりと物色して、天気を伺っている者、そして、本のコーナーで雑誌を手に取り、外の雨と交互に目をやっている者。
カツロウは、コミック誌を捲りながら、雨の弱まるのを待った。
その1メートル右隣りで、リョウコが同じように雑誌を捲りながら、時折外の雨を気にしていた。
この二人の他にも、数人の男女が、思い思いの本を手に取り雨が過ぎるのを待っていた。
10分、20分と経っても、弱まる気配のない雨にしびれを切らして傘を買って、店を出て行く者が目立ち始めた。
カツロウも、手に持っているコミックと傘を買って、店と出て行くことを決断しかけていた。
リョウコは、傘を買いたくなかった。はっきりと覚えているだけで、これと同じ状況に2度遭遇していた、いずれも傘を買って店を出てほんの数分で雨が上がってしまったという苦い経験があるのがその理由だった。
社へ戻る時間が少し暗い遅れても、なんとでもなる。それよりも、この雨がすっかり上がってくれて、余計な傘を増やさずに、この店を出ること。それが、リョウコの今の望みだった。
30分も立った頃、雨は少しその雨脚を弱め、上空の雲を透かす光は少し明るさを取り戻していた。
リョウコは、もう大丈夫だわ、傘は必要ない。そう判断して、雑誌を持ってレジへ向かった。
ほぼ同時だった。カツロウの判断は違った、傘とコミック誌を持ってレジへ向かった。
店を出て、同じ方向へ歩き始めた二人に向かって再び空は雨脚を強めた。
カツロウは、リョウコへ駆け寄った。
「良かったらどうぞ!」
カツロウはリョウコに傘を差しだした。
10数年後。
「ねぇ、ママ、今日の午後、夕立があるって天気予報で云ってるよ。折りたたみ持って行って方がいいんじゃない?」
高校2年になる娘のユマが、リョウコに云った。
「ママは大丈夫だから、自分の心配しなさい!」
「そんなこと云ってると、また通り雨に降られて、ずぶ濡れになって風引いちゃうよ」
「それもいいんじゃない。夏だし」
リョウコは、笑った。
ユマは知っている。なぜ、夕立の予報の日にママが折りたたみの傘を持って出かけないのか・・・
パパとママが出会ったのは、通り雨の夏の午後、雨宿りのコンビニだったこと。
そして、5年前に事故で亡くなったパパが、天国から降りてきて、通り雨に降られているママの肩に傘を差し掛けてくれるような気がしていること・・・
突然の雨だった。
ポツリ・・・ポツリと、大粒の雨が髪に肩に青空から落ちてきた。
リョウコが見上げた真上は、かろうじて青空だったが、左手から濃いグレイの低い雲の壁が空に幕を引くように押し寄せてくる。
今日の午後は、所によって雷雨になるでしょう・・・
天気予報で云ってたっけ・・・
この雨をしばししのげる場所は?とあたりを見回して、前方100メートルほど左手にあるコンビニを見つけた。
あの店で、傘を買ってもいいかな。まぁ、ちょっと立ち読みでもしてれば、上がりそうな気もするし。
リョウコは、そんなことを想いながら、小走りに、その店へ駆け込んだ。
カツロウはつぶやいた。
やっぱり降るよな、急に暗くなったからなぁ・・・
右手の掌を上へ向け、雨粒の大きさを確認しながら、彼は、とりあえず足を早めた。
そして、前方に見つけたコンビニへと目標を定めた。
あそこで、傘を買うか、それとも様子を見るか。どちらにしても、店に入ればなんとでもなる。
そのコンビニは、突然の雨を避けた人たちで午後2時とは思えないほどの賑だった。
すぐに、傘を買い、出てゆく者、店内の商品をゆっくりと物色して、天気を伺っている者、そして、本のコーナーで雑誌を手に取り、外の雨と交互に目をやっている者。
カツロウは、コミック誌を捲りながら、雨の弱まるのを待った。
その1メートル右隣りで、リョウコが同じように雑誌を捲りながら、時折外の雨を気にしていた。
この二人の他にも、数人の男女が、思い思いの本を手に取り雨が過ぎるのを待っていた。
10分、20分と経っても、弱まる気配のない雨にしびれを切らして傘を買って、店を出て行く者が目立ち始めた。
カツロウも、手に持っているコミックと傘を買って、店と出て行くことを決断しかけていた。
リョウコは、傘を買いたくなかった。はっきりと覚えているだけで、これと同じ状況に2度遭遇していた、いずれも傘を買って店を出てほんの数分で雨が上がってしまったという苦い経験があるのがその理由だった。
社へ戻る時間が少し暗い遅れても、なんとでもなる。それよりも、この雨がすっかり上がってくれて、余計な傘を増やさずに、この店を出ること。それが、リョウコの今の望みだった。
30分も立った頃、雨は少しその雨脚を弱め、上空の雲を透かす光は少し明るさを取り戻していた。
リョウコは、もう大丈夫だわ、傘は必要ない。そう判断して、雑誌を持ってレジへ向かった。
ほぼ同時だった。カツロウの判断は違った、傘とコミック誌を持ってレジへ向かった。
店を出て、同じ方向へ歩き始めた二人に向かって再び空は雨脚を強めた。
カツロウは、リョウコへ駆け寄った。
「良かったらどうぞ!」
カツロウはリョウコに傘を差しだした。
10数年後。
「ねぇ、ママ、今日の午後、夕立があるって天気予報で云ってるよ。折りたたみ持って行って方がいいんじゃない?」
高校2年になる娘のユマが、リョウコに云った。
「ママは大丈夫だから、自分の心配しなさい!」
「そんなこと云ってると、また通り雨に降られて、ずぶ濡れになって風引いちゃうよ」
「それもいいんじゃない。夏だし」
リョウコは、笑った。
ユマは知っている。なぜ、夕立の予報の日にママが折りたたみの傘を持って出かけないのか・・・
パパとママが出会ったのは、通り雨の夏の午後、雨宿りのコンビニだったこと。
そして、5年前に事故で亡くなったパパが、天国から降りてきて、通り雨に降られているママの肩に傘を差し掛けてくれるような気がしていること・・・