溶ける温度 - Rebirth -


「よし。これで全部かな。…大丈夫ですか?」


私があっけにとられている間に、男性はぶつかった拍子に地面に落ちてしまっていた私物を集めてくれていたようだ。

いけない、久しぶりに目を引く人にあったものだから頭の中がワープしてた。


お礼を言って差し出された私物に視線を落とすと、なんと、落としていたのはまさにさっきの企業の仕事概要情報のページだった。

こんな通りすがりの人に、しかもぶつかってしまって迷惑をかけた人に、ハローワークの資料を拾ってもらうなんて…!

ますます自分がみじめに思えてしかたなかったけれど、小声ながらもなんとかお礼を言いながらその資料を受け取った。


「…ありがとうございます。本当にすみませんでした」

「いいえ。それでは、私はこれで」


にこやかにほほ笑むと、その男性は私が歩いていた反対方向に足を進め颯爽と去っていった。

そのときにふわっと香ったマリンの香り。

_____実を言うと私は香水の匂いが得意ではない。
だけど、その時にかすめた香りは不快感なんて一切なくて。

この香り好きかも、と思いながら振り返って立ち去る彼を見ると、その後ろ姿さえもあまりに潔くて、また見とれてしまった。