文章にすれば原稿用紙一枚もいかない一シーン。時間にしたとしてもほんの数十秒の出来事。
だけど私の思考回路を真っ白にするには十分であった。


『……聞きたくもないけど一応質問してあげる。明季、あんたこの電話で私に何を言いたいわけ?』


美弥の直球の質問にぐ、と一瞬ひるむ。
電話越しに『くだらない答えだしたらただじゃおかないわよ』と言いたげなことがひしひしと伝わってくる。今晩の美弥はいつもの何倍も棘がツンと尖って痛そうである。


『まさかさぁ。「マスターってば最低!私をからかって遊んできたの!」とか、それが言いたいわけじゃないでしょ』