私の代わりに、死んだ人がいる――…
全く記憶が無い私にとっても、その事実は目の前が真っ白になる程の衝撃だった。
私に何があったのかは分からない。しかし、私が飛び降り自殺をしたばかりに、人を殺してしまっていたなんて!!
「警察は、この件に関して事件ではなく、事故として処理をした。
僕は、稀に見る珍しい出来事だったんで、君を追っていたという訳だ」
それで、医師も看護師も、私の事について何も教えてくれなかったんだ。
それに、このライターも最初に会った時に「記憶を失くして良かったね」と…
爪先から膝までが、コツコツとぶつかる様に震える。携帯電話を握る手に、全く力が入らない。
謝らないと…
許してもらえなくても、遺族の人達に謝らないと。
「あ…あの、亡くなられた人の事は、何か御存知ですか?」
「確か、糸井という苗字の男性だったと思うけど、それ以上はよく分からないんだ」
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