私はまた何も分からない闇の中に、独りきりで放り棄てられた…
名前も何もかも失ってしまった私には、この4畳ほどの白い箱が唯一の自分に与えられた空間だ。
しかし…
今朝まであった様々な器機も全て取り除かれ、私の他にはベッドとテレビ台しかない随分殺風景な場所になってしまった。
当然の様に誰も会いに来てくれる人も無ければ、帰る家も分からない。
私はこれから一体どうなるのだろうか…
鉄パイプ製のいかにも病院らしい簡素なベッドに寝転び、不安感を押し殺す為に意味もなく天井の蛍光灯をジッと眺めていた。
その時…
私は不意に自分の左側…つまり病室の扉付近から妙な気配を感じて、天井を見ていた目を首ごと扉の方に向けた。
……特に変わった様子はない。
気のせいかと思い、視線を天井に戻そうとした瞬間、扉の方向からスッと風が流れ込んできた様な気がした。
「あれ…?」
よく見ると病室の扉が、なぜだかほんの少しだけ開いていた。
確かに私は、看護師の松山さんがしっかりと扉を閉めて行った場面を見たのに…
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