幻覚とはいえ、度々襲われると、気付かないうちに精神的に追い詰められる。

見る物全てが、現実なのか幻覚なのか区別が出来ず、自分の存在すらが虚構なのではないかと思えた。


病室に戻り暫くすると起床時間になった。


「おはよう」

松山さんだ。どうやら夜勤だったらしい。

「おはようございます」


松山さんはブラインドを開けながら、私の顔を見て言った。

「どうしたの、何か顔色悪いわよ…
ぐっすり眠れなかったの?」

「いえ、また変な幻覚を見てしまって。
朝起きたら、首の周りに真っ赤な手の跡が、まるで首を絞める様な感じで…」


松山さんは私の話を聞くと側まで歩いて来て、ギュッと手を握った。

「大丈夫。きっと善くなるから、もう少し頑張って」

「はい…」


私は松山さんの言葉に、思わず泣きそうになってしまった。

頼れる人もいない私にとって、松山さんが唯一心の支えだった。


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