ミ ガ ワ リ


記憶喪失……



白い無機質な天井を半ば放心状態で見つめていると、ほんの5分ほど前まで電子音しか聞こえなかった部屋が騒然とし始めた。

年配の看護師に加え、30歳前後の若い医師が急いで駆け付けた。


記憶喪失が珍しいのか、治療費が払えそうにないからなのかは分からないが…

その短髪のスマートな医師は、対処の仕方にひどく戸惑っている様に見えた。


私はそんな現場を仕切れない医師を余所に、看護師の左腕にはめられた茶色いベルトの時計を覗き込んだ。

18時45分…


時間が分かったところで、そもそも今日が何月何日かすらも分からないのだから、余り役に立ちそうにはない。



「とりあえず、明日検査しましょう」

若い医師は15分ほどすると、そう普通に無責任な結論を出すと病室を出て行った。


結局私は何も教えられないまま再び放置され、病室で一人天井に張られた白いボードの穴を数えるしかなかった…


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