その日の夕方――

夕食の食器を廊下のワゴンに返しに行った時、偶然私服の松山さんに出会った。

多分、何か忘れ物でもしたのだろう。私はそんな松山に声を掛けた。


「お疲れ様です。私服の松山さんって、凄い新鮮ですよね」

「そうかな?」

「看護師姿も凛々しいですけど、私服は凄く大人っぽくて素敵です」

少し照れた松山さんは、左手で自分の頭を掻いた。


その時、私はその左手の薬指にダイヤの指輪が嵌まっている事に気付いた。

「じゃあ私は帰るから、余り出歩かない様にね」

「あ――…」


私は指輪の事を聞こうとしたが、言い出す間際に松山さんは帰ってしまった。

自分で買ったとは、とても思えない指輪…
婚約指輪だろうか?


まあ、あれだけ堂々と嵌めているところを見ると、他の看護師に聞いても分かるだろう。

また機会があれば聞いてみようと思い、私は病室に戻った。


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