「全く…
ただでさえ、あの面倒な患者を回されてるって言うのに…」
「記憶喪失のですか?」
「そうだ。
あの患者も本当は、副部長の担当になる筈だったんだ…
それを、何か異常事態が起きたら責任問題になって、自分の出世に影響するからって俺に押し付けた。
勘弁して欲しいよ…
何で記憶喪失なんて患者を、俺が看なきゃいけないんだ。
どこか余所に転院してくれれば良いんだけどな。
――…まあ良い、後は任せたから」
「はい、お疲れ様でした」
私は廊下で深夜に交わされた会話を、偶然に聞いてしまった。
それは担当医の清水先生が、私の事を荷物程度にしか考えていない事が露骨に分かる内容で、少なからず動揺した…
「あ…」
ナースセンター前から、足音が徐々に近付いてきた。
私は嫌な予感がして、ベッドの上に慌てて戻り寝たふりをした…
すぐに部屋の扉が開き、看護師が入ってきた。
「――…寝てるわね」
.



