「幻覚なのか…」
確かに灯を点けて直ぐに見たけど、何も無かったし…
幻覚としか思えないよね。
私は松山さんの背中を見送った後、ベッドに寝転んだままで色々な事を考えていた。
いくら私が記憶喪失だとはいえ、記憶を失う前は極当たり前の生活があった筈だ。
家族がいれば、友達もいたに違いない。突然消息を絶ったであろう私を、探している人もいるのではないだろうか…
ここは地域の大きい総合病院だ。誰かが、探しに来るかもしれない。
それまでの辛抱だ…
昼過ぎ――
外来患者がいなくなった時間帯に、私は病室を出て散歩に行った。
記憶が無い以外は基本的に悪い箇所はどこにもない訳だから、薄暗く息苦しい病室でおとなしくなんて出来る訳がない。
私は1階に下り、昨日の怪しいスーツ姿の男性に警戒しながら、外来の受付があるロビーを歩いていた。
その時、ロビーに並ぶ無数のベンチの端に、私を見詰めている男性の存在に気付いた。
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