「井上ぇ―――っ!!
よくも私を、殺そうとしたな!!」
私の言葉に、由衣の血の気が引いた顔が更に青ざめた。
「い、井上って…
その喋り方、まさか記憶が…」
私は由衣の左胸に刺さっている包丁を、軽く蹴り上げて笑った。
由衣の間抜け顔が、おかしくて仕方がなかったのだ。
「そうだよ。
さっきあの男に襲われた時、ようやく記憶が戻ったんだ。
お前も馬鹿だな。死んでるかどうかも確認せず、ベラベラと全部話すなんてな」
「で…でも、どうして生きて…
あの男に殺された筈じゃあ?」
元々私は勝ち気で機転がきく、冷徹な人間だ。記憶さえ戻れば、あんな男と交渉する事など訳はない。
極限の状況で、私はあの男と交渉したのだ。
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