白い車体が暗闇の中、僅かな光で微かに浮かんでいた。
後少し…ほんの30メートルで車に辿り着く。
でもこのいつもならすぐ目の前の場所が、今の私にはとてつもなく長い距離に感じる。
最後の力を振り絞り、前に倒れ込む様にして進んだ。少し振り返ると、男の姿は暗闇に紛れ全く見えなかった。
おそらく、私が力尽きた所で息の根を止めようと、鼻歌でも歌っているに違いない。
でも、その慢心が私の付け入る僅かな隙だ。
私は車に辿り着くと震える手で運転手の扉を開け、半身乗り込んだ。
「あった…」
私は急いで携帯電話を取り、由衣の電話番号をプッシュした
携帯電話を落とした時の為に、唯一の友達である由衣の電話番号は暗記していたのだ。
直ぐに呼び出し音が聞こえた。
1回、2回、3回…
違う携帯電話からだから、警戒して電話に出ないのかも知れない。
お願い早く、早く出て!!
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