私達を乗せた車は、大学に向かう最後の坂道に差し掛かった。
でもやはり、この人の存在は危険だ。私の記憶が完全に戻るまでは、自由に調査されては困る…
私は懐に忍ばせていた包丁を、服の上からギュッと押さえた。
大学に着くと、正門は開いていたものの、駐車場の真正面の一番奥に見えるサークル棟に灯りは点いていなかった。
「大丈夫かい?」
心配そうな表情で、ライターが私に尋ねた。
根本的に、私はここに用事がある訳ではない。ただ逃げてきただけだ。
私が曖昧な返事をしていると、ライターが気を利かせて言った。
「じゃあ、帰りも送ってあげるから、ここで待っていてあげるよ」
「あ、はい…」
ここで断ると、明らかに不自然だ。私は礼を言うと、ゆっくりと車を離れた。
振り返ると、ライターが背を向けて煙草を吸っている姿が目に入った。
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