その女性は私と目が合うと笑顔で駆け寄り、いきなり抱きついてきた。
私は余り突然な出来事に、驚いたというよりは、かなり狼狽した。
「麻弥、どこに行っちゃったのかと心配したんだよ」
耳元で鼻を詰まらせながら呟いた言葉で、私はこの女性が何者なのか理解した。
「い…井上さん?」
私の隣に座り直した女性は右手で自分の目尻を拭い、私の両手を強く握った。
「何馬鹿な事を言ってんの?
井上さんだなんて…
由衣だよ、由衣!!」
「由衣?」
ここでようやく思い出したのか、由衣は酷く表情を曇らせた。
「そ、そうだったね。記憶を失くしてたんだったね…
あ、私は井上 由衣。麻弥とは親友で、学部もサークルも同じだよ。麻弥に自己紹介するっていうのも、何か変な感じ…」
「ごめんなさい…」
「いいのいいの、仕方ない事だから」
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