「うっ…ふぇっ…ぐ」

誰もいない外廊下でうずくまる少女。
目には大粒の涙。
歯をくいしばって泣くのを我慢している。
そうこれが私、春野ひより、中学三年生。
今日はずっと通いたいと憧れていた南高の体験入学。南高はここら辺の高校で一番広くて綺麗で有名な高校である。そんな大きくて広い南高で迷子の私。
憧れの高校に舞い上がって勝手な行動をとっていたらいつの間にかはぐれてしまっていた。
はぐれたことに気づいて慌てて探そうと思った矢先、慌てすぎて階段から足を踏み外し両足の膝には擦り傷があり血が流れている。そしてやっとの思いで外に出れて今に至る。

「もうやだ、帰りたい」

いままで溜まっていた涙がポロリとほほを伝う。

「どうしたの?中学生ちゃん」

いきなり頭をなでられ顔を上げる。
そこには南高の制服を着た男の人がしゃがみこんでいた。
私は慌てて涙を制服の袖で拭い取り立ち上がった。

「べ、別に泣いてませんから!」

男の人はきょとんとしてからにっこり微笑んで立ち上がった。
それからまた頭をぽんぽんとなでてくれた。

「とりあえず保健室いこっか」

そういって私に背を向けてしゃがんだ。
驚いて一時停止しているとふはっと笑って「おんぶ」と手をひらひらしてみせた。
私はお言葉に甘えておんぶしてもらう。

「痛い?大丈夫?」

男の人はよいしょっとおぶり直しながら私を気にかけてくれた。

「名前なんていうの?どこ中の子?」

「春野ひよりです。芦原中です!」

「ひよりちゃんか!じゃあひよりんとかひよちゃんとか呼ばれるでしょ」

男の人は楽しそうにそういった。おぶってもらっていて顔が見えないけどきっと笑っている。

「よく言われます。先輩は?」

「やっぱ?あ、俺は藤木真宏。」

「真宏先輩!え、じゃあまひろん?」

私は真宏という名前を聞いて似合うな。と心の中で呟いた。

「まひろん?なにそれおもしろ」

真宏先輩は肩を揺らしながら笑った。

「やめてww力抜けるww」

そういった先輩の私を支えてくれている腕の力をどんどんなくなっていき私は支えがなくなり慌てて先輩にしがみつく。

「ちょ、真宏先輩!!?」

「おっと!」

くすくす笑いながら真宏先輩は私をおぶり直した。