「お世話になりました」
斜め向かいに座り
田辺さんは気持ちを込めて私に頭を下げた。

「私が勝手に押しかけたんです。でも、桜ちゃ……」

「僕がそう仕向けた」

私の言葉を遮り
彼は言う。

「氷なんてコンビニでも買えた」

熱い視線に息が苦しくなる。

「ご両親が旅行って知っていて、家には郁美さんしかいないとわかっていて、僕は助けを求めた」

そんな目で見ないで欲しい。
ただのお隣さんなんだから。

「結婚も決まってるのに」

「決まってません」
うつむいて唇を噛む。

「僕は……貴女が好きだ」

男らしく言われた。

「郁美さんは若いし、銀行員の彼もいる。僕はバツイチで子供もいる。仕事だって不安定だし、勝ち目なんてない」

叱られた子供のように
私はそのまま顔を両手で覆い、現実から逃げたくなる。

「でも……郁美さんが、どうしようもなく愛しい」

急にそんな事を言われ
返事ができない。


だって……。

「迷惑なら言ってほしい。すぐあきらめて、本当にただのお隣さんになる。もう一切、こんな話はしない」

だって私は……。

「自分の気持ちを押し殺そうとしたけれど、僕は郁美さんが好きです」

私は……。

「郁美さん?」

「私も……好きです」

ずっと我慢していた気持ちが、涙と共に解放された。


私も好き。

田辺さんが好き。

心から大好き。

田辺さんと桜ちゃんが大好きです。