隣に座っていいですか?これはまた小さな別のお話

「離婚届をあちらから送って来たので、彼女とは正式に別れてます。彼女とはそれから連絡もないし、今、どこにいるのかもわからない。僕はまたここで桜と一緒に頑張ろうと思ってます」

さっぱりと男らしい。

そんな過去だったんだ。

「あの……何もしらないで、すいません。さっきは強く変な事を言ってしまって」
何も関係ない他人なのに
申し訳ない事を言ってしまった。

連絡が取れなくて
どこにいるのかもわからないなら
桜ちゃんがお母さんに会えなくて当たり前だ。

「ごめんなさい」
嫌な昔の話をさせてしまった。

「いいんですよ。こちらこそ変な話をしてすいません」

「桜ちゃんは可愛くて、町内の人気者です。きっとここで楽しく過ごせると思います」

何事も前向きに
これからの事を考えてほしい。

「ですね。こちらに引っ越してよかった。皆さん優しくて助かってます」

どうしても手を貸してしまいたくなる
そんなオーラが自分から出ているのは、気付かないのだろうか。

「あとですね!」
いきなり強い調子で、私に背筋を伸ばして向き合う田辺さん。
何?
私も背筋を伸ばしていると

「郁美さんのお父さんに先日の歓迎会で『奥さんに、逃げられてかわいそうになぁ』って、お酌をされたのですが」

お父さん
私と同じで率直だから。

「僕は逃げられてませんよ。彼女が出て行っただけですからね」

ドヤ顔で私に言うけど

一般的には
それが
逃げられた……って話じゃないでしょうか。

「わかりました」
思わず吹き出して返事をすると

「どうしてそこで笑います?」

爽やかに田辺さんも笑顔を見せる。

そんな
午後のひととき。