隣に座っていいですか?これはまた小さな別のお話

「桜ちゃんがねー」

「はいはい」
マグカップを温める為
今度はそちらにお湯を入れる。

「幼稚園の男の子に『桜のチョコが欲しい』って言われたんですって?」

その事実が楽しくて
つい彼に言うと

「なんだって?」

彼の身体が固まり
ギラリと目が光る。

はい?どうしました?

「なんですそれ?男の子が桜からチョコが欲しいって?はぁ?何ですかそれは?」
声が荒い
顔も怖い。
いや、ポットを置いてちょうだい!

「その子誰?」

「危ないから、ポットを置いて」

なんとかなだめ
ふたりでコーヒーを飲みながら、私が説明。

ほのぼのとさぁ
かわいくて、ええ話だと思うのだけどなぁ。

頬杖をつき
しっかり面白くない顔をしている。
反抗期の子供のようだ。

「桜には、その気はないんですよね。ただ『欲しい』って言われただけで……」
ブツブツとめんどくさい男である。

「そうだよ。だから邪魔しないでね」
釘をさすと、返事しないでうなずいてくれた。

まったくもう

「これからどーすんの?桜ちゃんだって彼氏とかできるよ。一生邪魔するの?」

「それもアリかと……」

「いい加減にしなさい」

喝を入れたらご本人が二階から降りてきた。

「さくらのクレヨン。となりのおばあちゃんのおうちだったー」
元気に隣の実家に走る桜ちゃん。

「邪魔しないでよね」
その後ろ姿を優しく見送る私は、夫に鋭く冷たく言い放つ。