隣に座っていいですか?これはまた小さな別のお話


「いきなりどうしました?」
銀のポットの口金から蒸気がともり、彼は手元のタオルをつかみポットの細い口金から、静かに静かにフィルターにお湯を落し、まずは全体を蒸らしてタイマーで一分測る。

「いやバレンタインだから」

「そんな時期ですね」
ニッコリ笑って
ちょこんと近くでまとわりつく私の額にキスをする。

「紀之さんの若い頃は、沢山もらったんだろうなーって思って」

「今も若いですよ」
ムッとされてしまった。
だから話のツボがちょいとズレてる。

タイマーが鳴り
彼は手首を動かし
蒸らした豆の真ん中に細く細くお湯を入れてから、高い位置からクルクルと上手に螺旋を描いてお湯を流す。

職人芸のよう。

フィルターの中では繊細な泡がふんわりムースのように広がる。
この泡を崩してはいけないらしい。

いつも入れてもらう立場な私。

「いい香り」

「風味がいいでしょう。マンデリンですよ」

マンデリンでもドリンドルでも
入れてもらうと何でも嬉しい。

美味しいコーヒーが出来上がり、