「さくら、ホワイトデーだ」
ゆうと君はピンク色した袋を桜ちゃんに渡した。
桜ちゃんは「ありがとう」って両手で受け取る。
いい光景だ。
あたりまえだけど爽やか。
感動していると
私の背中で
「さくら……って、『さくら』って呼んだ!郁美さん。家族じゃないのに、桜の名前を呼び捨てにしてる!」
悶絶しているうるさい男に、静かに蹴りを入れる私。
「さくらにだけ、いっぱい入ってるから」
ゆうと君はそう言うと、桜ちゃんは「うん」って笑う。
「らいねんも、ずっとチョコくれたら、オレもずっとさくらにあげるから」
「うん。わかった」
「ずっとチョコくれたら、けっこんしてやるから」
ゆうと君
いきなりのプロポーズ。
親の前で度胸あるぜ。
カッコいい!
なにげ俺様系か?
微笑ましくて笑ってしまう。
「郁美さん!郁美さん!どうしよう!ねぇ、出て行っていい?『桜はやらない』って言っていい?」
半泣きの男に
もう一度蹴りを入れよう。
黙っててくれ
今、一番いいとこなんだから。
すると
桜ちゃん
黙ってるかと思ったら
「うん」って大きく返事した。
はい
結婚決定!
おめでとう!
背後で胸を押さえて青白い顔した男が、はいずるように居間へ逃げて行った。



